(前回の続き)

暖かい夜だった。朝起きたとき、テントの内側にほとんど霜がおりていなかった。日本海にある弱い気圧の谷のために曇っているせいか?と、外に出てみるが、空はうっすらと巻層雲に覆われているものの、風も弱くまずまずの天気。
今日は軽くひと滑りしてから、アルペンルートが混雑する前に帰る予定だ。

国見岳に向かう。国見岳はカール状の魅惑的な斜面を持つが、頻繁に新雪雪崩が発生する危険地帯だ。去年の11月30日にもこの正面の斜面で雪崩が発生し、犠牲者がでている。今日は積雪が50cm〜1mくらいしかなく、弱層を確認しようとピットを掘ると地面が出てきてしまうほどだ。しかも風でパックされた新雪でかなりしまっている。絶好のチャンス。
どこから登ろうかと地図と実際の地形を眺めながら思案する。去年、雪崩れた斜面にトレースがついている。いくら雪が良くてもそんなところを登る気にはならない...

稜線に出てから、室堂山と国見岳の間の釣尾根を行くつもりだが地図では細い。それがちょっと心配。

室堂山から台地のように突き出す尾根にのった。地図上では平坦な地形だが、実際は細かい凹凸があって、風上側の斜面ながら複雑に雪庇がついている。ここからの剱岳はなかなかかっこいい。

主稜線に出た。薄曇だが空気は澄んでいて、薬師岳はもちろん槍穂から笠ヶ岳まではっきり見える。いつも室堂山の展望台で見る景色と同じ。

心配していた室堂山から国見岳の釣尾根。鞍部までは雪原と言っていいほど広く快適そうな尾ね。しかしその先は...国見岳への登りは細く急なリッジになっている。トレースはそのリッジの右側にへばりつくように細くついてる。傾斜が急なのはいいが、ここから見ると一ヶ所、雪が切れて岩を越えているように見える。しかも右側は岩が頭を出す雪壁。

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国見岳山頂到着。いつも見てるだけだった山にやっと登った。さすがに風は冷たい。展望は360度、室堂山の展望台よりずっと絶景だ。
問題の岩のでている場所は、本当に岩がでていた。その横のスキー1本分の幅しかない雪を崩れないように祈りながら踏んで越えた。

室堂ターミナルの後ろは雷鳥沢だ。なめらかに雪に覆われた雷鳥沢はスキーのためにあるんじゃないかと思えるほど。ターミナルの横にはたくさんのテントがある。指定地を大幅にはみ出して張られている。
さて、体が冷えないうちに下りよう。シールをはがしてカールのような美しい斜面に飛び込む。

滑り下りた斜面を振り返る。真ん中の3本が我々のシュプール。誰も滑っていない、滑り出しが40度はあろうかという沢を、砂漠を爆走する4WDのように、パウダースノーを巻き上げながら落ちるように滑った。言うことなし!!こんな場所は、いつもだったら雪崩が怖くて滑れない。滑りに夢中になりすぎて、途中で写真を撮るのを忘れてしまった...
最高の滑りの余韻に浸りながら、道路をたどって室堂平のサイト場に戻る。テントの撤収をしていたら環境省のレンジャーが、サイト場を見まわりながらゴミを拾っていた。なんと、こんなところにゴミを落としていく不届き者がいるのだ!ついでにいろいろとお話をうかがった。
近年のバックカントリーブームで雷鳥平のサイト場のし尿(雪の上にしたものは春に一斉に融けて、あたりを汚す)が限界を超えて環境問題となった。そのため、室堂ターミナルのトイレが利用できる室堂平、それも石碑の周囲に限って今年、試験的にキャンプ指定地が設定された。ところが、予想外というか、予想通りというか、マナーを守らないバックカントリーヤーがあまりに多い。レンジャーも残念そうだった。これでは来年の設置は怪しいのではないか...

室堂ターミナルのトイレがあるにも関わらず、雪の上にはあちこちに黄色い跡がある。この人たちはスキー場の真ん中や、公園の真ん中でするのだろうか?これでは何のためにここを指定地にしたのか分からない。

雪を掘り下げてテントを張るのは、雪上技術としておかしい。海外では風除けのために掘り下げて張ることもあるが、日本では一晩の積雪が桁違いに多いため、掘り下げると雪が吹き溜まってテントが埋もれてしまう可能性がある。掘り下げずに風上にブロックを積むのが正解では?(我々はそうした。)
昼前に室堂を発つ。大観峰へ向かうトロリーバスが、トンネル工事の難所、破砕帯を通過する。この派手さは遊園地のアトラクションのような...

来るときは吹雪でなんにも見えなかったが、今日はロープウエイの窓から、新雪に覆われたタンボ平を見下ろす。もうなんとか滑れそうだな〜。

ケーブルカーの運転台はとってもレトロ。


黒部ダムは雪解けを迎えた春のようだった。つい一昨日、ショベルカーで雪かきをしていたのがウソのよう。


(立山・室堂 完)