先々週の北岳バットレスに負けない、ポピュラーなクラッシックルート、谷川岳一ノ倉沢烏帽子沢奥壁南稜を目指す。が、昨夜はテントに小石が降るかのようなひどい雨。これでは岩がビショビショだ。不安がつのる。

昨夜の雨で岩が濡れているのは間違いない。現在の天気は曇り&ガス。急に岩が乾くことも期待できない。
リーダーに、どうしますか?とたずねられ、自分のヘナチョコぶりを忘れ、行けるところまで行ってみましょう!などと答える。で、とりあえず出発。
今日の天気予報は晴れ後雨。岩場の途中で雨に降られたくない。想像さえしたくない。そこで、昼には下山するために、夜明けの一ノ倉沢に入山する。薄暗く雲が重く垂れ込める一ノ倉沢はまさに「魔の山」にふさわしい威圧感。

一ノ倉沢の右岸を歩いて行くと、すぐに雪渓の末端に突き当たる。雪渓の割れ目をさけ、ルートを選びながら雪渓にはいずり上がる。

硬く急な雪渓を一歩一歩足元を確かめながら登ってゆく。意外なことにつま先を蹴りこんでも、はじき返されるほど雪が硬い。それなのに雪渓の上は暑い。気持悪いほど蒸し暑い。沢から雪渓の上をガスとともに風が吹き下りて来るが、この風がサウナの熱風のように、異常に湿度が高くて熱いのだ。

テールリッジ末端に到着。これを登り本当のアプローチが始まるが、アプローチと言ってもどう見ても立派な岩場。
陽が昇り、ガスの切れ間から青空と一ノ倉沢の岩壁が見えてきた。

テールリッジ末端を登る。ルート集にはV級とあった。しかし、雪渓が引いたばかりで浮石が多いのと、ドロドロしているためフラットソールが使えず、アプローチ用の軽登山靴で登ったので、難しく感じた。

テールリッジは「リッジ」なので尾根だ。だが、所々スラブになってるうえに、おまけに昨日の雨のせいで岩が濡れ、まるでナメ滝だ。そこを軽登山靴で登る...滑る、滑る!、滑る(怖!)尾根の両側はナメナメしたまま、スラブに落ち込み、そのスラブもナメナメしたまま下まで続いている。落ちたらどこまで滑るのだろう...。幸いもっとも難しい場所にはフィックスロープがあったが、鉄板に油をまいたような場所をロープにつかまって歩くのもかなりしんどい。

そんなこんなで、衝立岩中央稜の取り付きまでやってきた。ここを左にトラバースすれば烏帽子沢奥壁南稜の取り付きだ。つまり、ここからが今日の本番。しかし、滑るテールリッジとの格闘で汗だくになり、時間も予想以上に使ってしまった。そしてやはり岩は濡れている...

と言うことで、辺りの景色を目に焼き付けつつゆっくり休む。一ノ倉沢の対岸には滝沢スラブが見える。垂直に立ち上がり滑らかに延び上がってゆく壁。この冬期登攀をNHKで放送していたっけ。む〜、怖い。
(次回に続く)